遭遇でっくわ)” の例文
先刻さっき、僕が吾家うちから出掛けて来ると、丁度御濠端おほりばたのところで皆に遭遇でっくわした。僕は棺に随いて会堂までやって行った」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
機会に遭遇でっくわしさえすれば、その底の底の暴風はたちまち勢を得て、妻子も世間も道徳も師弟の関係も一挙にして破れてしまうであろうと思われた。少くとも男はそう信じていた。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
あの娘子軍の一行、浮かれ浮かれて、村はずれを、人の気もない山へ山へと練り出した、そこで遭遇でっくわした私たちだったのだ。酔興だとも思えるが、流石に原生林の中の寂しい生活者の姿である。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
ホラ、此頃こないだ、雪の降った日が有りましたろう——ネ。あの翌日でサ。私が河蒸汽で吾妻橋あずまばしまで乗って、あそこで上ると、ヒョイと向島に遭遇でっくわしました。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そういう場合の彼は後姿なぞの節子に似た人をどうかすると見かけるまでであって、髪のかたち一つ彼女と同じものに遭遇でっくわすということさえほとんど無かった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
水辺みずべに住むものの誰しもが耳にするような噂をよく耳にしたことはあるが、ついぞまだ女の死体が流れ着いたという実際の場合に自分で遭遇でっくわしたことはなかった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「なにしろ、君、出て来る早々ああいう目に遭遇でっくわしたんだからネ……実際あの晩はエラかったよ……」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
まかないの食わせる晩食ばんめしあじわおうとして、二人は連立って食堂の方へ行った。黙し勝な捨吉は多勢の青年の間に腰掛けて、あの繁子に図らず遭遇でっくわしたことを思出しつつ食った。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)