追羽子おいばね)” の例文
自転車もなく、たまに年始客の人力車が通るくらい、どこの往来も娘や若衆の追羽子おいばね、子供のたこ揚げで一杯、これらは江戸時代そのままの風景。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
遊戯は我国に於ると同様、時季にかなっていて、只今の所では紙鳶あげ、独楽廻し、追羽子おいばねが最もよく行われる。
この珍しさは夜間街燈に追羽子おいばねを見得るようになった現代といえども、依然これを感ずることが出来る。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
往来にはまだ追羽子おいばねの音も、たこの唸りも聞える正月十三日、よく晴れた日の朝のうちのことです。
騒がしく、楽しい町の空の物音は注連しめを引きわたした竹のそよぎにまじって、二階の障子に伝わって来ていた。その中には、多吉夫婦の娘お三輪みわが下女を相手にしての追羽子おいばねの音も起こる。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
追羽子おいばねのいづれも上手じょうず姉妹
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
門松のある中に遊ぼうとするような娘子供は狭い町中で追羽子おいばねの音をさせて、楽しい一週の終らしい午後の四時頃の時を送っていた。丁度家には根岸のあによめが訪ねて来て岸本の帰りを待っていた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
表門のくぐり戸を開けて、田辺とした表札の横に、海老えびだいだい、裏白、ゆずり葉などで飾った大きな輪飾りの見える門の前を先ずき清めた。楽しそうな追羽子おいばねの音は右からも左からも聞えて来ていた。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)