辣腕家らつわんか)” の例文
それのみならず、彼は非凡の辣腕家らつわんかで、一面その人気取りに抜け目なく働いたので、壮士俳優に川上音二郎あることを早くも東京人に認められたのであった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
なにしろ、その三伝という男が、冷血なことこの上なしという辣腕家らつわんかだったで、自然独裁の形にもなるし、他の三人も、自衛上三伝と対立するようになった。つまりが、勢力争いじゃ。
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
結婚したばかりだったから、長く遊んでいるとさいの信用がなくなる。その当座の心持を忘れずに辛抱すればかったのだが、上役に一人意地の悪い辣腕家らつわんかがいて、その機嫌が取り兼ねた。
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
武人にとって、もっとも苦手なものは、公卿くげづきあいと、豪商どもの操縦だが、それを得意とする辣腕家らつわんかは、織田家中において、朝山どのの右に出るものはない。——柴田どのすら恐れ入っている
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この理想主義を理解せざる世間は藤岡をもくして辣腕家らつわんかす。滑稽こつけいを通り越して気の毒なり。天下の人はなんと言ふとも、藤岡は断じて辣腕家らつわんかにあらず。だまかし易く、欺かされ易き正直一図いちづの学者なり。
学校友だち (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)