“賚(たまもの)” の例文
いたく、性命を尊みて、これより、我より、當來より、なに物か、えまほしく、求めてやまず……噫(あゝ)、人は、當來に、豐なる賚(たまもの)を望む。
窃(ひそか)に思ふに只蘭軒をして能く拘儒(くじゆ)たることを免れしめただけが、即ち此学統のせめてもの賚(たまもの)ではなかつただらうか。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
さほどに苦しまずしてその意を解することを得たのは今は既に世になき翰の賚(たまもの)であると言わねばならない。
梅雨晴 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私は、此等の人々に、ある期間先輩の作風をなぞった後、早く個性の方角を発見して、若きが故の賚(たまもの)なる鮮やかな感覚を自由に迸(ほとばし)らそう、となぜ努めないのか、と言いたい。
歌の円寂する時 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
唯だ富人の手に任せて輕く投卑(とうひ)するときは、その賚(たまもの)は貧人心上の重荷となるを奈何(いかに)せん。
彼等は愛の刑と愛の賚(たまもの)とを同時に享(う)けて、同時に双方を切実に味わった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
医を蘭軒に学んで、福山に於て医学世話を命ぜられたのである。わたくしの此証左を得たのは浜野氏の賚(たまもの)である。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
彼等は愛の刑(けい)と愛の賚(たまもの)とを同時に享(う)けて、同時に双方を切実に味はつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
その代り生き戻り損(そこな)う危険も伴(ともな)っていないから、心配のあるもの、煩悶(はんもん)の多いもの、苦痛に堪(た)えぬもの、ことに自滅の一着として、生きながら坑夫になるものに取っては、至大なる自然の賚(たまもの)である。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
最後にこの経験をもっとも公明に解剖して、解剖したる一々を、一々に批判し去る能力がなかったなら——ありがたい事に自分はこの至大なる賚(たまもの)を有(も)っている、——すべてこれらがなかったならば
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)