“識合(しりあ)” の例文
幸い識合(しりあ)いの者に一人も出会わなかったのでホッとした。敏感な弟も、こうした私の最後の目的ばかりは察し得なかったと見える。
冥土行進曲 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
わたしと金永生は元から深い識合(しりあ)いではなかった。彼は続いて去年の暮れのことを思い出した。そのとき一人の同郷生が十円借りに来た。
端午節 (新字新仮名) / 魯迅(著)
私は、一寸した識合(しりあ)いになっている、そのサナトリウムの院長がときどき上京する機会を捉えて、其処へ出かけるまでに一度節子の病状を診て貰うことにした。
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
お前はちょうど日露戦争頃に先代のロスコーさんと識合(しりあ)いになって、それ以来ずっと、ロスコー家に奉職していたんじゃないか。
S岬西洋婦人絞殺事件 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あの時古久先生は大層不機嫌であったが、趙貴翁と彼とは識合(しりあ)いでないから、定めてあの話を聞伝(ききつた)えて不平を引受け、往来の人までも乃公に怨みを抱くようになったのだろう。
狂人日記 (新字新仮名) / 魯迅(著)
この密告書はアイツの筆跡(て)に相違ないよ。ここに来て吾輩の窮状を見ると間もなく書上げて、識合(しりあ)いの船頭に頼んで、呼子(よぶこ)から投函さしたものに違いないんだ。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
一体君はどうして王(ワン)君と識合(しりあ)いになったんだい。ドウセお楽しみ筋だったのだろう。ハハハ。ナニそうじゃない。両替をするつもりで王君のレストランへ這入(はい)った。ウム。
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「ほかでもありませんがね。今申しました貴女と古いお識合(しりあ)いのC国公使のグラクス君が、ツイこの間帰任しがけに面白いものを見せてくれたのです。いわば貴女の御不運なんですがね」
けむりを吐かぬ煙突 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
R市支社の重役で日本語の達者なドラン氏が本日、識合(しりあ)いの特高課長の処へ出頭して、ロスコー氏の死因は自殺か、他殺か。本国へ打電する必要があるから極く内々で説明してもらいたい。
S岬西洋婦人絞殺事件 (新字新仮名) / 夢野久作(著)