謙抑けんよく)” の例文
高田の鋭く光る眼差まなざしが、この日も弟子を前へ押し出す謙抑けんよくな態度で、句会の場数を踏んだ彼の心遣こころづかいもよくうかがわれた。
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
が、堂堂たる批評家たちの短歌や俳句を批評するのを見ると、不思議にも決して威張ゐばつたことはない。いづれも「わたしは素人しろうとであるが」などと謙抑けんよくの言を並べてゐる。
変遷その他 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
大将は心に燃え上がるものをおさえていたが、またあまり過ぎた謙抑けんよくは取り返しのつかぬ後悔を招くことではないかともいろいろに煩悶はんもんをしながら帰って行くのであった。
源氏物語:39 夕霧一 (新字新仮名) / 紫式部(著)
仏教、特に禅が空を説き無を標榜するのとは、正に反対であった。クリスト教が「生の哲学」と結び附き、信仰を生の否定謙抑けんよくよりも高次の生として崇める方に傾くのは自然である。
メメント モリ (新字新仮名) / 田辺元(著)
魂が洗われ休められて純潔になって出て来る、謙抑けんよくと愛との沐浴もくよくの快さを、彼はしみじみと感じた。彼にとっては信ずることがいかにも自然だったので、どうして人が疑い得るかを了解しなかった。