蔽被おっかぶ)” の例文
大巌おおいわの崖が薄黒く、目の前へ蔽被おっかぶさって、物凄ものすごうもなりましたので、ふんどしめ直すやら、膝小僧ひざっこぞうを合わせるやら、お船頭が、ほういほうい、と鳥のような懸声で、浜へ船をつけまして
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
背後うしろから湿っぽいやみと小さなへや寂寞せきばくが肩の上へ蔽被おっかぶさるような気がして、思わずそっと窓から顔を出した。ふるえる瓦斯ガスにちらちらしている街は、何だか自分から逃げてゆくように見えた。
フェリシテ (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
「根岸から天王寺へ抜ける、細い狭い、蔽被おっかぶさった処でしょう。——近所でも芋坂の方だと、ちょいちょい通って知ってますけれど、あすこは、そうね、たった一度。可厭いやな処だわね、そこでどうかなすったんですか。」
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)