草萌くさも)” の例文
ま昼の馬場いちめん、草萌くさもえのにおいも手つだい、せるばかりな花の肉感が、そよ風のたびに、顔をなでてくる。
と、草萌くさもえで青み渡っている、小さな築山の前へまで来た。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
わらじに踏む草萌くさもえを楽しみながら、おちこち眺めては、ひとり自然の草木と語ってゆく一旅人がある。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女は、駕屋のいやしい眼に背を向けて、淋しそうな風もなく、ひとりで深い山ふところへ向って歩み出した。風のない山蔭は、二月の草萌くさもえが匂って、寒くなかった。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
昼間は、もう草萌くさもえのぬくむ土、ぬるむ水に、春の肌心地を感じるので、油断して、薄着のまま出てきたが、夜になると、急にとげのある空気が、風邪心地かぜごこちの肌を寒気立さむけだてる。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてその底に、草萌くさもえ頃の地熱にも似た誓いがどの顔にも燃えている。ずいぶん苦しい任務や内輪の艱難かんなんもあるにはあるのだろうが、家中の誰にも不平や卑屈の顔が見えないのはふしきだ。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
藪蔭やぶかげはもう暖かな草萌くさもえのにおいにれていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)