いや)” の例文
いやしくも棟梁といわれる大工さん、それが出来ないという話はない、漆喰の塗り下で小舞貫を切ってとんとんと打っていけば雑作ぞうさもなかろう。
いやしくも」と、渠は再び威だけ高になつて、「二等室に乘るくらゐのものなら、それくらゐの禮儀ア知つてをる筈だ。」
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
あの茎の内部にある海綿様繊肉質は血であろうと何んであろうと、いやしくも液体ならば、凡て容赦しない。
夢殿殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
いやしくも新らしい空気に触れた男はみんなイブセンの人物に似た所がある。たゞ男も女もイブセンの様に自由行動を取らない丈だ。腹のなかでは大抵かぶれてゐる
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
所が、それも初めのうちの事で、追々と、一週又一週を経るに連れ、それ以下の望遠鏡へ写る事となり、ついには、いやしくも天体を観測する人は皆これを認むるに至った。
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)
しかいやしくもスキーヤーたるものは、スキー場霧ヶ峯と云ふならば、車山から大門峠へそして親湯迄のコースを、又は池のくるみから鷲ヶ峯迄のコース迄を含めなくてはうそであらう。
釣十二ヶ月 (新字旧仮名) / 正木不如丘(著)
青年期には冷厳いやしくもせず、果敢な闘士的風格を備えて、才気縦横、ひとたび論敵を前にすれば否が応でも相手の屈服するまで追いつめねば止まなかった男が、鬢髪びんぱつ霜を加えるに及んで
早稲田大学 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
いやしくも小説家として筆を持つて立つてゐる以上、何んなことでも書けるやうにならなければ本当ではない。いかなる人生でも展開して来やう。いかなる人間でも如実に描き出して見せやう。
通俗小説 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
いやしくもこのまま死んでしまはない以上、どうしても、この悲痛を實現する一大事業をしたい。」
泡鳴五部作:03 放浪 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
いやしくも人格上の言葉に翻訳の出来る限りは、其翻訳から生ずる感化の範囲を広くして、自己の個性をまったからしむるために、なるべく多くの美しい女性に接触しなければならない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)