腥風せいふう)” の例文
腥風せいふうおおうとはこの一瞬のことであった。宵はすでに暗く、死闘のおめきは、一声一声、血のにおいをふくんで天をける風となった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ草を濡らす血潮と死体から腥風せいふういたずらにふき立って月の面をかげるばかり剣闘の場も一時は常の春の夜に返ったと見えた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
銃鳴り剣閃めき、戦血地を染め、腥風せいふう草樹をらすの時に、戦争の現状を見る、しかれども肉眼の達せざるところ、常識の及ばざるところに、閃々たる剣火は絶ゆる時なきなり。
最後の勝利者は誰ぞ (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
二剣、その所をべつにしたが最後、波瀾はらん激潮げきちょうを生み、腥風せいふうは血雨を降らすとの言い伝えが、まさにしんをなしたのである。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
腥風せいふう都下を払って、ほっとしたのは、曹操よりも、民衆であったろう。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
腥風せいふう一陣まき起こって、とっさに二つの命の灯を吹き消し去った手練でも知れるように、魔か魑魅ちみか、きゃつよほど、腕と腹ふたつながらに完璧の巧者に相違ない。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しかもこの大打撃を与えた官軍の大蹄団だいていだんは、すでにうしおの如く凱歌と共に自陣へ引いてしまったものとみえる。腥風せいふういたずらに寒く、曠野こうやの夕風は青い五日月を無情の空にぎすましているのみだ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)