胚芽はいが)” の例文
しかしせいぜい骨折って「物の中心の隠れた心核を見るためのかなたよりの光」を伝え、物の最初の胚芽はいがたる元子について物語ろうというのである。
ルクレチウスと科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
大菩薩峠の胚芽はいがは余が幼少時代から存していた処であるが、その構想は明治の末であり、そのはじめて発表されたのは大正—年—月—日の都新聞に始まるのである。
生前身後の事 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これが漫談などが出てくる現象の一原因で、話語わごの上手さに於て漫談の比で無いに拘らず、落語は日に日に古臭くなって行き、漫談はもう一転換したなら遥に落語を圧倒する丈の胚芽はいがを含んできた。
大阪を歩く (新字新仮名) / 直木三十五(著)
そうしてその錯雑した中に七五あるいは五七の胚芽はいがのようなものが至るところに散点していることが認められる。
俳句の精神 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
あの頃の短文のようなものなども、後に『ホトトギス』の専売になった「写生文」と称するものの胚芽はいがの一つとして見ることも出来はしないかという気がする。
明治三十二年頃 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
不幸にして科学の中等教科書は往々にしてそれ自身の本来の目的を裏切って被教育者の中に芽ばえつつある科学者の胚芽はいがを殺す場合がありはしないかと思われる。
化け物の進化 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
この重要な仕事に連関して天文や気象に関する学問の胚芽はいがのようなものが古い昔にすでに現われはじめ
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
小さなブーメラング形の翼の胚芽はいがの代わりにもう日本語で羽根と名のつけられる程度のものが発生している。しかしまだ雌雄の区別が素人目しろうとめにはどうも判然としない。
あひると猿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それで、この国曳くにびきの神話でも、単に無稽むけい神仙譚しんせんだんばかりではなくて、何かしらその中にる事実の胚芽はいがを含んでいるかもしれないという想像を起こさせるのである。
神話と地球物理学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
どんな瑣末さまつな科学的知識でも、その背後には必ずいろいろな既知の方則が普遍的な背景として控えており、またその上に数限りもない未知の問題の胚芽はいがが必ず含まれているのである。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
この疑問の解答が一般に知られていないということが、学位をめぐるあらゆる不都合な事件の発生の胚芽はいがとなり、従っては一国の学術の健全な発達を妨害する一つの素因ともなり得るかと思われる。
学位について (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)