肱掛ひじか)” の例文
途中から乗った学生とも職工ともつかぬ男が、ベンチの肱掛ひじかけに腰をおろして周囲の女生徒にいろんな冗談を言って笑わしていた。
写生紀行 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
翌日、例の下のへやにはいってゆくと彼は一種の戦慄せんりつを感じた。肱掛ひじか椅子いすは二つともなくなっていた。普通の椅子さえ一つもなかった。
小肥こぶとりに肥った丸顔の木元主任は、葉子を大きい肱掛ひじかけ椅子に腰かけさせた。彼は初めて見る葉子の美しさに魅せられた形で
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
建て付けの悪い肱掛ひじかけ窓の戸を洩れて、冷たい夜風が枕もとの破れた行燈あんどうの灯をちろちろと揺らめかせている。信州の秋は早いので、壁にはこおろぎの声が切れぎれにきこえる。
半七捕物帳:38 人形使い (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
破れた肱掛ひじか椅子いすが一つ、トゥーサンの荷物がいっぱいのせてある椅子が数個、それきりだったが、後はそれでも心地よいへやだと思った。
下駄げたをぬいで、クションの上に坐り、肱掛ひじかけに突っ伏しているうちに、疲れが出てうとうとと眠った。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
朝十時の奏楽のときに西村にしむら氏がそばへ来て楽隊のスケッチをしていた。ボーイがリモナーデを持って来たのを寝台の肱掛ひじかけの穴へはめようとしたら、穴が大きすぎたのでコップがすべり落ちて割れた。
旅日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
彼は非常な努力をして、テーブルと古い肱掛ひじか椅子いすとを暖炉のそばに引き寄せ、テーブルの上にペンとインキと紙とをのせた。
やがて彼は肱掛ひじか椅子いすから身をふりもぎ、九十一歳の老年に能う限りの早さで扉の所に駆け寄り、扉を開き、そして叫んだ。
しかし二つの肱掛ひじか椅子いすは、室の端のとびらの近くに並んでいた。「どういうわけだろう?」とジャン・ヴァルジャンは考えた。
綴紐とじひものついた肱掛ひじか椅子いすが並びとばりがかかってる大きな客間よりも藁椅子わらいすをそなえた小さな小屋の方が好ましかった。