群集ひとごみ)” の例文
三人は息せき駆け出して往つたが、出て来る群集ひとごみのなかには加藤男らしいものは影さへ見せなかつた。
乗客はいづれもらちの中へと急いだ。さかん黒烟くろけぶりを揚げて直江津の方角から上つて来た列車は豊野停車場ステーションの前で停つた。高柳は逸早いちはや群集ひとごみの中を擦抜すりぬけて、一室のを開けて入る。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
銀座の縁日の晩などには、よくまた小父さんに連れられて行つたものです。乞食の集つて居るやうな薄暗いところから急に明るい群集ひとごみの中へ出ることは、妙に私の心をそゝりました。
かすきず一つ負はなかつた白耳義の運転手は、にこにこもので其辺そこら群集ひとごみを見廻してゐたが、ふとバアンス氏の亜米利加式の顔が目につくと、いきなり帽子を脱いで頭の上でりまはした。
せいの低い子安君は群集ひとごみの中を分けて来て、体操教師に別離の握手を求めた。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)