緊張ひきし)” の例文
「あぶない!」と彼はその突嗟とっさ、自分の心を緊張ひきしめた。「考えてはいけない考えてはいけない。無念無想、一念透徹、やっつけるより仕方がない」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
馬はあらゆる筋肉を緊張ひきしめて懸命に前へ牽きだそうとするけれど、車台は微塵も動かない。
乞食 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
真白な面を緊張ひきしめてくるくるともんどりうつ凄さ、可笑をかしさ、又その心細さ、くるくるとおどけ廻つて居る内に生真面目きまじめな心が益落ちついて、凄まじい昼間の恐怖が腋の下から、咽喉から、臍から
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
胴全体が大きいお尻を、動かし、緊張ひきし
四十がらみの小男ではあるが、鋭い眼付き高い鼻、緊張ひきしまった薄い唇など、江戸っ子らしい顔立ちで、左の頬にかすかではあるが、切り傷らしいものがつたる。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
能い加減に巫山戯け散らしてゐた霊魂がピタと緊張ひきしまる。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
この時までの専斎は見るも気の毒な臆病者であったが、怪我人の傷を一眼見るや俄然態度が緊張ひきしまった。つまり医師としての自尊心が勃然湧き起こったからであろう。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
錠を下ろしたような緊張ひきしまった口、その豊かな垂頬から云っても、卑しい身分とは思われない。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかし実際郡上平八は、あの晩以来思うところあって、あの時耳にした鼓の音を、是非もう一度聞きたいものと、全身の神経を緊張ひきしめて、江戸市中を万遍まんべんなく、歩き廻っているのであった。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
巨眼鋭く人を射し、薄い唇は緊張ひきしまり、風雨雪霜に鍛え尽くした黝色ゆうしょくの顔色は鬼気を帯び、むしろ修験者というよりも夜盗の頭領と云った方が、似つかわしいような面魂つらだましいに二人はちょっと躊躇ちゅうちょした。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これに反して北斎は一時に精神こころ緊張ひきしまった。
北斎と幽霊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)