簇々むらむら)” の例文
常緑木の中でも、松や杉は青々とした葉の下に黄ばんだ古葉ふるは簇々むらむられて、自ら新にす可く一吹いっすいの風を待って居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
不断忍んでゐる多くの不快が、一時に雲のやうに簇々むらむらと頭をもたげ出して、その一つが、彼女のそれに対する憎悪をそゝるやうに、明瞭に思ひ出させるのであつた。
乞食の名誉 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
多病の為めに言うがままにして余り検束を加えなかったことや、いろいろなことが簇々むらむらと胸に浮んだ。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
すぐ上の処に、凌霄のうぜんの燃えるような花が簇々むらむらと咲いている。蝉が盛んに鳴く。その外には何の音もしない。Pan の神はまだ目をまさない時刻である。僕はいろいろな想像をした。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
自然の最奥さいおうに秘める暗黒なる力に対する厭世えんせいの情は今彼の胸を簇々むらむらとして襲った。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)