稀覯きこう)” の例文
しかんな卑近な珍本は買っても買わなくてもいいが、どうかすると、河岸の箱にも、途方もない稀覯きこう書が紛れ込んでいる事がある。
愛書癖 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
余が大英博物館で読んだアンションの『閹人顕正論』は一七一八年ロンドン刊行で、よほど稀覯きこうの物と見え、右の目録にも見えぬ。
「ああ、驚くべきじゃないか。これは、ホルバインの『死の舞踏トーテン・タンツ』なんだよ。しかも、もう稀覯きこうに等しい一五三八年里昂リオンの初版なんだ」
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
伊達政宗がひどくうらやんで、岩代いわしろ半国と代えようと申込んだが、とうとう譲らなかったという、天下稀覯きこうの大名物です。
その顔立、物腰、言葉使から着物の着様に至るまで、東京の下町生粋きっすいの風俗を、そのまま崩さずに残しているのが、わたくしの眼には稀覯きこうの古書よりもむしろ尊くまた懐しく見える。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と云うのは、その壁面を飾るものに、現在は稀覯きこう中の稀覯ともいう銅版画で、一六六八年版の「倫敦ロンドン大火之図」が掲げられているからだった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
伊達政宗がひどくうらやんで、岩代半國と代へようと申込んだが、到頭讓らなかつたと言ふ、天下稀覯きこうの大名物です。