祖谷いや)” の例文
みやげにもらっていたンだが、祖谷いやを下る途中、とうとう六兵衞に化かされて、おこわめしをぬすまれて、ひでえめにあったよ。
狐物語 (旧字新仮名) / 林芙美子(著)
祖谷いや米良めらの藤橋は別として、いわゆる丸木橋や一本橋を両岸に繁ぐにも、必要なものは松藤または白口藤などである。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
づ/\橋板を踏むと、足の底がふわりとして、一足毎に橋は左右に前後に上下に搖れる。飛騨山中、四國の祖谷いや山中などの藤蔓の橋の渡り心地がまさに斯樣こんなであらう。
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
ず/\橋板を踏むと、足のそこがふわりとして、一足毎ひとあしごとに橋は左右に前後に上下にれる。飛騨ひだ山中、四国の祖谷いや山中などの藤蔓ふじづるの橋の渡り心地がまさに斯様こんなであろう。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その證據には、四國祖谷いや山の山中であるとか、九州、中國あたりの奧深い山村には、今日なほ平家の末孫たちがいろんな傳説をもつて住んでゐるのを見てもわかるのである。
折々の記 (旧字旧仮名) / 吉川英治(著)
祖谷いやの山々が、こんもりとしていて、六兵衞よ、お母さんがとても心配しているから、早くかえっておいでといっているようにみえました。
狐物語 (旧字新仮名) / 林芙美子(著)
阿波の祖谷いや・肥後の五木いつきなどでは、小作人のことを今でも名子なごといっている。名子は名主の属民の義である。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
この山に無為な生命をつづけようとするならば、屋島やしまの浦から祖谷いやへ落ちてきた平家の余族のように、それはいとやすいことに思える。しかし、麓の手配りを破る策は絶対にない。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
六兵衞狐は、氣のいい正直者の牛と別れて、淋しい山道を祖谷いやの山の中へいそいそと登ってゆきました。
狐物語 (旧字新仮名) / 林芙美子(著)
山つづき、祖谷いや桟橋かけはしをよじ越えて、土佐、讃岐さぬきの国境をうかがおうか。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雲烟の彼方に祖谷いやの神祕な山々がつらなつてゐた。向うの河岸では二十世紀の文明を乘せて、轟々と汽車が走つてゆく。河のおもてを見てゐると、白い雲が流れてゐた。
旅人 (旧字旧仮名) / 林芙美子(著)
淡路から四國へ出て、祖谷いやの山奥ふかくはいつて行つた此の十日あまりの旅の生活が、私にはまるでもう人跡未踏の世界へ來たやうな人なつかしさを與へてゐるのであつた。
旅人 (旧字旧仮名) / 林芙美子(著)
祖谷いやの山々が黄昏の彼方にかすみ、東京も遠いのであつたし、何も彼もが夢のやうである。
旅人 (旧字旧仮名) / 林芙美子(著)