目的あてど)” の例文
私は野獣けもののような荒い佐久女の本性に帰って、「御母さん、御母さん」と目的あてどもなく呼んで、相生町の通まで歩いて参りました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
二人ふたりの言葉は一寸ちよつ途断とぎれた。そして何所どこへともなく目的あてどなくあるいて居るのである。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
それとも、また、自分の心の迷ひであらうか。といろ/\に想像して見て、しまひには恐怖おそれ疑心うたがひとで夢中になつて、『阿爺おとつさん、阿爺さん。』と自分の方から目的あてどもなく呼び返した。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
自分も矢張その男と同じように、饑と疲労つかれとで慄えたことを思出した。目的あてどもなく彷徨さまよい歩いたことを思出した。恥を忘れて人の家の門に立った時は、思わず涙が頬をつたって流れたことを思出した。
朝飯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)