物哀ものあわれ)” の例文
振乱す幽霊の毛のように打なびく柳のかげからまたしても怪し気なる女の姿が幾人いくたりと知れず彷徨さまよで、何ともいえぬ物哀ものあわれな泣声を立て
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
間の延びた物哀ものあわれな角笛の音律を聞くともなく聞いていたのであったが、意識がようやく醒めて来るに従って、節まわしが少し巧者過ぎるから喇叭ラッパではないか知らんなどとも疑ったりした。
リギ山上の一夜 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
それに反して日陰の薄暗い路地はあたかも渡船の物哀ものあわれにして情味の深きに似ている。式亭三馬しきていさんば戯作げさく浮世床うきよどこ』の挿絵に歌川国直うたがわくになお路地口ろじぐちのさまを描いた図がある。
お千代はたれようが殺されようが皆な自分が悪いんだから、どうなりと気の済むようにと云わぬばかりの態度で、いかにも物哀ものあわれにしくしく泣きながら事情を訴えて
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)