熟柿じゆくし)” の例文
「お前のお父さんの部屋は、とても臭かつたぜ。あんな汚ない蒲団のなかで、熟柿じゆくしくさいお父さんに抱かれて寝てゐても臭くなかつたのか。」
チビの魂 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
そこへ、松田が熟柿じゆくしの樣な顏をして、よろ/\とやつて來て、「やア、失敬」と、天鵞絨びろうどベンチの上へどツかり腰をおろす。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
だからあの時、幼い私と、一つの熟柿じゆくしを半分わけにして、いかにも、おいしさうにして食べたお母さんの顔を思ひ出すと、何だか悲しくなつてならない。
お母さんの思ひ出 (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
ゆびさし乍ら熟柿じゆくしくさ呼吸いきを吹いた。敬之進は何処かで飲んで来たものと見える。指された少年の群は一度にどつと声を揚げて、自分達の可傷あはれな先生を笑つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
お角は半狂亂のていでした。襟も裾も亂れたまゝ、熟柿じゆくし臭い顏を、わが子の濡れた頬に持つて行くのです。
昔ひとりの小僧さんが烏の落した熟柿じゆくしを拾つて來てそれを水で洗つて己が師僧さんに與へた。
足相撲 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
熟柿じゆくしに汚れた肩のところを拭いて呉れた。
父の婚礼 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
熟柿じゆくしを食べてしまふと、すぐに読みさしの太閤記たいかふきをひらき、お母さんは縫物をはじめた。それから後のことは、おぼえてゐない。もう二十年余りも昔のことだから。
お母さんの思ひ出 (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
「あのね、熟柿じゆくしを一つ買つてきておくれよ。おいしいだらうと思ふから。」
お母さんの思ひ出 (新字旧仮名) / 土田耕平(著)