為体えたい)” の例文
旧字:爲體
七輪や、なべ土瓶どびんのやうなものが、薄暗い部屋の一方にごちやごちや置いてあり、何か為体えたいの知れない悪臭で、鼻持ちがならなかつた。
チビの魂 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
誰やら為体えたいが分りませぬ。われわれどもが、今日のお迎えのため、勢揃いして山上からおりてまいると、途中一名の浪人者が、馬をつないで路上に鼾睡かんすいしています。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まるでわけが分らぬように相手の顔を見つめていた。刀は肩へ斬りこまれた。まるでびっくり飛び上るような為体えたいの知れない短い喚きが虚空こくうへ消えた。斬られた肩を片手でおさえた。
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
とアジャラ声を張り上げ、そのあと何が何だか為体えたいのわからないことを歌い出すと、それに合わせて一方は目を剥き、烈しく手を振り、足を蹴り上げ、世にも奇妙奇天烈な恰好の乱舞をはじめる。
寄席行灯 (新字新仮名) / 正岡容(著)
それによ、何よりの注意は、長い遠国からの道中、どんなけがれに触れたやら為体えたいも知れん。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
為体えたいの知れぬその影がまた私を悩ましはじめる。
おみな (新字新仮名) / 坂口安吾(著)