漣漪さざなみ)” の例文
少女の面を絶えず漣漪さざなみのように起こっては消える微笑を眺めながら堯はそう思った。彼女が鼻をかむようにして拭きとっているのは何か。
冬の日 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
鳥島と裏浜とはあひること僅に数町にすぎず、そのあひだ漣漪さざなみつねに穏かなり、かつ遠浅なれば最も海水浴に適す。
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
幾戸の藁屋わらやが、まばらにちらばつてゐるばかり、岸に生えた松の樹の間には、灰色の漣漪さざなみをよせる湖の水面が、磨くのを忘れた鏡のやうに、さむざむと開けてゐる。
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
申すまでもなくそれは女で、あざやかな帯と着物だけが空中に舞い、肉体は血の池深く落ち込んで、漣漪さざなみをただよわせると見れば、竜之助の夢もそれで破れました。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それを利用する事のできない継子が、感謝とは反対に、かえって迷惑そうな表情を、遠慮なく外部そとに示すたびに、すぐ彼女と自分とを比較したくなるお延の心には羨望せんぼう漣漪さざなみが立った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
涼風は漣漪さざなみを吹きよせたり、渚のさざれは玉よりも滑かなり、眠れる渡守を呼び醒し悵然ちやうぜんとして独り城山に対す。
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
健三の胸は好奇心の刺戟しげきに促されるよりもむしろ不安の漣漪さざなみに揺れた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)