滿干さしひき)” の例文
新字:満干
ああ東京の街! 右から左から、刻一刻に滿干さしひきする人の潮! 三方から電車と人がなだれて來る三丁目の喧囂さはがしさは、さながら今にも戰が始りさうだ。お定はもう一歩も前に進みかねた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
それが、少しむづかしい問題であると、藤野さんは手を擧げながら、若くは手を擧げずに、屹度後ろを向いて私の方を見る。私は、其眼に滿干さしひきする微かな波をも見遁みのがす事はなかつた。
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
些と美しい女中が時々渠の室に泊るという事と、宿の主婦——三十二三で、細面の、眼の表情しほ滿干さしひきの烈しい、甚麽どんな急がしい日でも髮をテカテカさして居る主婦おかみと、餘程前から通じて居るといふ事は
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)