滴垂したた)” の例文
まだ人影の見えない浴槽ゆぶねのなかには、刻々に満ちて来る湯の滴垂したたりばかりが耳について、温かい煙が、燈籠とうろうの影にもやもやしていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
かいから滴垂したたる水の音は
窓のつい眼のさきにある山の姿が、淡墨うすずみいたように、水霧につつまれて、目近まぢかの雑木の小枝や、崖の草の葉などに漂うている雲が、しぶきのような水滴を滴垂したたらしていたりした。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
たきなどの滴垂したたりおちる巌角いわかどにたたずんだり、緑の影の顔に涼しく揺れる白樺しらかば沢胡桃さわぐるみなどの、木立ちの下を散歩したりしていたお増の顔には、長いあいだ熱鬧ねっとうのなかに過された自分の生活が
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)