滅却めっきゃく)” の例文
(全然この態度を滅却めっきゃくする事は不可能でありますが、もし真を本位として著作に向うと、思ったよりも評価的神経は遅鈍になります)
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
摩伽羅迦まからか等(〔八部衆の悪神〕)が人民を害することを大いによろこんで霰やひょうを降らして、そうして収穫を滅却めっきゃくしてしまうのである。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
動くことは環境の鏡の破壊であり、環境の事情によってのみ存在させられつけている自分のようなものに取っては、それは自己の滅却めっきゃくを意味するから。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「妻子には恨まれても、宗門の滅却めっきゃく他目よそめに見てはいられない。城や一族は捨て去るとも、人の道は捨てられぬ」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこでその問答の底意そこいは、己れが煩悩ぼんのうの心を打ち破って己れが心の地獄を滅却めっきゃくするために勇気凜然りんぜんたる形をあらわし、その形を心の底にまで及ぼして解脱げだつの方法とするのであります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
忍剣は身の危険きけんを知るよしもなかった。おそらくかれは、故快川和尚こかいせんおしょう最期さいごのことば——心頭しんとう滅却めっきゃくすれば火もまたすずし——の禅機ぜんきをあじわって、二十一日のけいをけっして長いとも思っておるまい。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)