満庭まんてい)” の例文
後醍醐が現われると、階下ではみな、ひれ伏したので、満庭まんてい、衆人の背の波だった。およそ綺羅きら波映なみばえといっていい。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
築山の木枝の参差しんしへかけて、満庭まんていの鬱々としてまた媚々びびたる、ものゝ芽の芽立ちの色の何というたましいまでに美しく人をき付けることでしょう。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
散りかゝった満庭まんていのコスモスや、咲きかゝった菊や、残る紅の葉鶏頭はげいとうや、蜂虻はちあぶの群がる金剛纂やつでの白い大きな花や、ぼうっと黄を含んだ芝生や、下葉したは褐色かっしょくしおれてかわいた萩や白樺や落葉松や
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
が、やがて可憐かれんな精神病患者が遊歩ゆうほするのを認めて一種奇嬌ききょうな美の反映をその満庭まんていの桜から受け始めました。
病房にたわむ花 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
いまの大敗報にひしがれてか、満庭まんてい、しゅんとしていたからだった。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)