温気ぬくもり)” の例文
老人は病をつとめて、わがために強いて元気をつけている。親しみやすき蒲団ふとんは片寄せられて、穴ばかりになった。温気ぬくもりは昔の事である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
埃つぽい白けた温気ぬくもりを蹴散らすやうに勇ましく、ところが矢張り悄々として兎も角然し間違ひもなく跳ね起きはして、ふやけた寝床を片附けてゐたら
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
敷き棄てた八反はったん座布団ざぶとんに、ぬしを待つ温気ぬくもりは、軽く払う春風に、ひっそりかんと吹かれている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
繁吹しぶきをあげてザザザザーッ……と頭を揺すぶる竹藪の音が、激浪のやうに荒れ狂ふ裏手一帯の劇しい起伏うねりを未だ一杯に温気ぬくもりの籠めた朝の部屋に歴々と描き出して見せてしまふ、かと思ふと
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)