汚涜おとく)” の例文
そこで今日まで文壇がこの事実に対して、どんな反響をしているかと云うと、一般にファウストが汚涜おとくせられたと感じたらしい。
訳本ファウストについて (新字新仮名) / 森鴎外(著)
彼の全身は怒りの固まりのようであった、妻のしたり顔が彼を毒し、辱しめ、汚涜おとくするように思える。「女め」と主税介は呟いて、唾を吐いた。
四日のあやめ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
あなたの潔癖があなたの母子情を汚涜おとくすることとして、それをあなたに許さないように、僕もあなたのその潔癖を汚しては済まないと思います。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
剣道の奥義おうぎを会得するために念々修業しております、しかるにあの娘たちは淫卑いんび猥雑わいざつ、けがらわしき言動を以てわれわれを悩まし、神聖なる草庵を汚涜おとくいたします
似而非物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
むす子の存在の仲介によって発展した事情に於て××××……それを母の本能が怒ったのだ、何物の汚涜おとくも許さぬ母性の激怒が、かの女を規矩男から叱駆しっくしたのだ。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
又よしや一時純潔な交のようなものが出来ても、それはきっと似て非なるもので、その純潔は汚涜おとく繰延くりのべに過ぎないだろう。所詮そうそう先の先までは分かるものではない。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)