歯痒はが)” の例文
旧字:齒痒
むす子のこんなことすら頼母しがるお嬢さん育ちの甘味の去らない母親を、むす子はふだんいじらしいとは思いながら、一層歯痒はがゆがっていた。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その代り、妻が小心で正直すぎるために、清吉は、他人ひとから損をかけられたり儲けられる時に、儲けそこなって歯痒はがゆく思ったりすることがたび/\あった。
窃む女 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
読者を歯痒はがゆがらせる点については、事実談ならこうもあろうかと、大目に見て貰う外はないのである。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そして彼はすべてのことを思うままにぶちまけることのできない自分をその時も歯痒はがゆく思った。
親子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それを自分の手落ちにして、ひどくしおれているお静や、岡惚れ帳に書き入れ損ねて、がっかりして居る八五郎の顔を見ると、平次は歯痒はがゆく馬鹿々々しく、そして腹立たしくさえ感ずるのでした。
音に聞くシャン・ゼリゼーの通りが余りに広漠として何処に風流街のおもむきがあるのか歯痒はがゆく思えた。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)