かぞ)” の例文
一日かかって四十かぞくのは、普通一人前いちにんまえの極度の仕事であったが、おとらは働くとなると、それを八十把も漉くほどの働きものであった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そのしたためてある生紙きがみ二つ折り横じの帳面からしていかにもその人らしく、紙の色のすこし黄ばんだ中に、どこかかぞの青みを見つけるさえ彼にはうれしかった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
薮畳やぶだたみを控えた広い平地にある紙漉場の葭簀よしずに、温かい日がさして、かぞを浸すために盈々なみなみたたえられた水が生暖なまあたたかくぬるんでいた。そこらには桜がもう咲きかけていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
夜があけてから、思いがけない或幸いが、この一家を見舞うであろう由を言告いいつげて立去った。その旅客のあとに、貴い多くの小判が、外に積んだかぞのなかから、二三日たって発見せられた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)