棗形なつめがた)” の例文
今、通って来た右側の樹立の奥に見えた築地ついじと屋根が、東山殿どのの銀閣寺であったらしい。ふと、振顧ふりかえると、そこの泉が棗形なつめがたの鏡のように眼の下に見えたのである。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
欄間らんま蜀江崩しょっこうくずしがまた恐れ入ったものでげす、お床の間は鳥居棚、こちらはまた織部おりべの正面、間毎間毎の結構、眼を驚かすばかりでございます、控燈籠ひかえどうろう棗形なつめがた手水鉢ちょうずばち
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
赧くなった素子の棗形なつめがたの小麦色のきめの滑らかな顔付に、ひどく稚い純な魅力を感じた。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
浅黒い棗形なつめがたの素子の白粉気のない顔は、酔ってあか黒く脂が浮いて見え、藍地に白でぽってり乱菊を刺繍した桃龍の半襟の濃艶な美しさは、素子の表情のにぶくなった顔を、ひときわ醜くした。
二つの庭 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
パチリと、棗形なつめがたに眼を見ひらいた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)