末枯うらが)” の例文
暫くこうした幻影が幻影を見ている間を、窓の外では、晩秋の光線が徐徐に日暮れに傾きつつ、樹樹の末枯うらがれた葉の影を深めてゆく。
旅愁 (新字新仮名) / 横光利一(著)
むしろ末枯うらがれそめた葉蔭に露わに姿を現わしている瓜や南瓜の方が多く心にとまるようになるのであります。
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
燠につたほだの呟き。——わたしの脊椎せきつゐはづしとつてする「洗骨式せんこつしき」を、……でなければ、肉体の髄をきつくしてする「風葬祭ふうさうさい」を、……そんな末枯うらがれた夢見もするわな。
(新字旧仮名) / 高祖保(著)
そこは丁度主人の寢部屋のあたりで、少しばかりの空地と嚴重なへいをへだてて、その塀の外、末枯うらがれた僅かばかりの雜草を染めて、血潮のこぼれてゐるのも淺ましい感じです。
道の真中は乾いているが、両側の田についている所は、露にしとしとにれて、いろいろの草が花を開いてる。タウコギは末枯うらがれて、水蕎麦蓼みずそばたでなど一番多く繁っている。都草も黄色く花が見える。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
彼らはさも気易きやすそうな態度で、折鞄おりかばんに詰めて来た消毒器やメスやピンセットを縁側に敷いた防水布の上にちかちか並べた。夏もすでに末枯うらがれかけたころで、ここは取分けの光にいつもかげがあった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
末枯うらがるる秋の時節だけにすこぶる閑静な問答である。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二人は髷節まげぶしを揃へて路地の外へ出ました。初冬の江戸の町は往來の人までが妙に末枯うらがれて、晝の薄陽の中に大きな野良犬が、この施主せしゆになりさうもない二人を見送つてをります。