しかしあの「よごれて戻る」様子は、すこぶるのんびりした情景である。「春風」を配合しないでも、たしか春風駘蕩しゅんぷうたいとうたるところがある。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
そいつを無造作むぞうさつかんで、そこらをふいている可愛い男の顔を、お絃は、食べてしまいたそうに、うっとり見惚みとれていようという、まことに春風駘蕩しゅんぷうたいとうたるシインだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しかし、逢えば、機嫌は悪くなく、能面と評された例の無表情な顔で、春風駘蕩しゅんぷうたいとうたるものだった。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「君のところはいつも春風駘蕩しゅんぷうたいとうのようだが、子供のないのが玉に疵だな」
人生正会員 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「桜の間」は、越後獅子の人徳のおかげか、まあ、春風駘蕩しゅんぷうたいとうの部屋である。こんどの回覧板も、これはひどい、とまず、かっぽれが不承知をとなえた。固パンも、にやりと笑って、かっぽれを支持した。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ただ、時が春風駘蕩しゅんぷうたいとうの時ではないが、ところはたしかに桜の馬場。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
寒気厳烈の雪原とはいえさながらに春風駘蕩しゅんぷうたいとう
閑山 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
仮令たとい朱鞘の浪人者が徘徊はいかいするにしても、空気は一変して春風駘蕩しゅんぷうたいとうの図とならざるを得ぬであろう。物凄い朱鞘の人物に調和するのは、やはり梅より外はあるまいと思う。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
「あいあい、」と女房は春風駘蕩しゅんぷうたいとうたる面持おももち
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)