斯人このひと)” の例文
しかし、言葉を交して居るうちに、次第に丑松は斯人このひと堅実たしかな、引締つた、どうやら底の知れないところもある性質を感得かんづくやうに成つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
そして斯人このひと、今わたくしをみはっているこの立像のあるじは、かつて、わたくしのこの上もない心の友だったのです。陰惨事しげき今の時代には、そのなさけはまた是非わたくしに必要なものであったのです。
丁度その二本榎に、若い未亡人ごけさんうちがあつて、斯人このひとは真宗に熱心な、教育のある女でしたから、和尚さんも法話はなしを頼まれて行き/\しましたよ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
丑松は『藁によ』の蔭で見たり聞いたりした家族のことを思ひ浮べて、一層斯人このひとに親しくなつたやうな心地がした。『ぼや』の火も盛んに燃えた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)