斜陽ゆうひ)” の例文
斜陽ゆうひに影をこしらえて吹いてくる西風が、緑のせた草の葉をばらばらと吹き靡かせ、それから黄沙を掻きまぜて灰のような煙を立てた。
太虚司法伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
もう八つさがりで、たにの向側の山脈は冷たい斜陽ゆうひを帯びて錦繍の地を織っていた。薬研の内側のようになって両方に聳えた山々は、屏風を立てたように碧い空を支えていた。
人面瘡物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そこは栃木県の某温泉場で、下にはみきったK川の流れがあって、対岸にそそりたった山やまの緑をひたしていた。まつすぎならなどのまばらに生えた林の中には、落ちかかった斜陽ゆうひかすかな光を投げていた。
藤の瓔珞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)