散切ざんぎ)” の例文
海を渡って来るものは皆文明開化と言われて、散切ざんぎり頭をたたいて見ただけでも開化した音がするとうたわれるほどの世の中に変わって来た。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「まア、させてお置きなさいよ。」千代子も笑ひながら口を出し、「散切ざんぎりなら、さぞ結構な虎刈りができるでしようよ。」
泡鳴五部作:01 発展 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
なるほどその髪の毛は最近に散切ざんぎりにされたあとがあつたが、少し延びかかつてゐ、ちやんと女風の長襦袢の肩を見せて眠り、日頃のたしなみを
釜ヶ崎 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
倉地はやはり物たるげに、袖口そでぐちからにょきんと現われ出た太い腕を延べて、短い散切ざんぎり頭をごしごしとかき回しながら
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
散切ざんぎり頭に浴衣ゆかたがけでいられたりしたら、———そしてうわべだけにもせよ、今までの贅沢が打って変って、急に几帳面に、妙なところで所帯持ちをよくされたりしたら、———と
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
頭の禿げた丸佐の主人はやつと散切ざんぎりになつた父と、無尽燈を中に坐りました。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
にわか散切ざんぎりの西洋ごしらえ、フランスじこみのマンテルにイギリスのチョッキを着け、しかもそれは柳原あたりの朝市で買い集めた洋服であり、時計はくさりばかりぶらさげて
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「あそこへ行くのは、あれはなんだ——うん、総髪そうがみか」とでも言うように彼には感じられる。彼はまだ散切ざんぎりにもしないで、総髪を後方うしろにたれ、紫のひもでそれを堅く結び束ねているからであった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)