故意ことさら)” の例文
と、う考えたので、彼は故意ことさらに小さくなって、さながら死せるようにしずまっていた。対手あいて温順おとなしいので、忠一も少しく油断した。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
のみならず、兄の眼から見れば、彼女が故意ことさらに自分にだけ親しみを表わしているとしか解釈ができまいと考えて誰にも打ち明けられない苦痛を感じた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして此のジメジメとした台所で間に合はぬこともなかつたが、故意ことさらに井戸端へ出て顔を洗ふ気持になつた。
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
まるで濡れた壁土のような、重苦しい黄色である。この画家には草木の色が実際そう見えたのであろうか。それとも別に好む所があって、故意ことさらこんな誇張こちょうを加えたのであろうか。
沼地 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
で、思わず声を揚げて呼ぼうとしたが、遠方から敵をおどろかしては妙でない。ひそかに近寄ってその不意を襲うにしかずと、市郎は故意ことさら跫音あしおとぬすんで、煙のなびくかたへ岩伝いに辿った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ひょっとするとこの人は自分をけて来たのだという疑惑を故意ことさら先方に与える訳になる。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)