惹着ひきつ)” の例文
「あいつはおれ財産ざいさん惹着ひきつけられてゐるんだ。」大久保おほくぼはいつかさうつてゐたけれど、竹村たけむらには其意味そのいみ全然ぜんぜん不可解ふかかいであつた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
お島は絶えて聞くことの出来なかった、東京弁の懐かしさに惹着ひきつけられて、つい話にときを移したりした。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
しなくなした前垂まえだれがけの鶴さんや、蝋細工ろうざいくのように唯美しいだけの浜屋の若主人に物足りなかったお島の心が、小野田のそうした風采ふうさいに段々惹着ひきつけられて行った。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
通りの時計屋の子息むすこに心を惹着ひきつけられて、淡い恋の悩みをおぼえはじめ、その前を通るとき、又は思ひがけなく往来で、行合つたりした時に、顔があかくなつたり心臓が波うつたりして
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
親しみのないような皮膚の蒼白あおじろい、手足などの繊細きゃしゃなその体がお島の感覚には、触るのが気味わるくも思えていたのであったが、今朝は一種の魅力が、自分を惹着ひきつけてゆくようにさえ思われた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)