恍惚ほれぼれ)” の例文
袋棚ふくろだなと障子との片隅かたすみ手炉てあぶりを囲みて、蜜柑みかんきつつかたらふ男の一個ひとりは、彼の横顔を恍惚ほれぼれはるかに見入りたりしが、つひ思堪おもひたへざらんやうにうめいだせり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
奥様は御器量を望まれて、それで東京から御縁組おかたづきに成ったと申す位、御湯上りなどの御美しさと言ったら、女の私ですら恍惚ほれぼれとなって了う程でした。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
直樹の父親が来て、「木曾のナカノリサン」などを歌い出せば、達雄は又、すずしい、恍惚ほれぼれとするような声で、時の流行唄はやりうたを聞かせたものだった。直樹の父親もよくこまかい日記をつけた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)