忿念ふんねん)” の例文
が、僥倖ぎょうこうなことには、一同の眼も好奇心に駆られて、彼方あなたへばかり注がれだしたから、誰あって、末席の新九郎が、怖るべき殺気の忿念ふんねんにつつまれていようとは気がつかない。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
演じて夫人の跨下を出づるに至るや、両人覚えず大哭たいこくして曰、「名節地をはらふことここに至る。夫れまた何をか言はん。然れども孺子じゆしの為にはづかしめらるること此に至る。必ず殺して以て忿念ふんねんらさん」
八宝飯 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
彼の忿念ふんねんは刻々と燃えて、握りしめた柄刀つかに、微かな鍔鳴りがガタガタと聞かれだした。金井一角をさえ真ッ二つにした腕——三太刀振って三人を外さなかった春日新九郎だ。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)