忌中きちゅう)” の例文
木崎の家は、もう忌中きちゅう貼紙はりがみも取れ、立番の巡査もいなくなって、何事もなかった様にひっそりと静まり返っていた。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
燭台しょくだいともし放しになっているのだ。その、灯を背負って赤い障子に貼られた忌中きちゅうの文字は、大きな達筆である。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
二十年まえに離別りべつした人でこの家の人ではないけれど、現在げんざいお政の母である以上は、まつりは遠慮えんりょしたほうがよかろうと老人ろうじんのさしずで、忌中きちゅうふだを門にはった。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
可怪おかしいぞ。すだれが下がって、忌中きちゅうふだが出て、中から線香の匂いだ。誰が死んだのだろう?」
「しかし——忌中きちゅうのところにあまり関係ない人が出入りすると悪いから——」
風宴 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
お座敷帰りとも見える姿で、ちょうど忌中きちゅうの札をかけて大混雑中の棟梁方の格子戸をくぐろうとした時だ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「川越屋には忌中きちゅうの札が出てますよ、親分」
門前には、白黒の鯨幕を張りめぐらし、鼠いろの紙に忌中きちゅうと書いたのが、掲げてある。門柱にも、同じく鼠色の紙に、大きく撒銭仕候まきぜにつかまつりそろと書いて貼り出してあるのだ。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)