彼地此地あちこち)” の例文
彼は洋燈らんぷ持出もちだして庭をてらすと、足跡はたしかに残っているが、人の形は見えぬ。なお燈火あかり彼地此地あちこちへ向けているうちに、雪は渦巻いて降込ふりこんで来た。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
人さわがせ屋センセイション・モンガアというものはあるもので、濠洲と南亜の海岸彼地此地あちこちで、空壜に這入った手紙や、遺書のようなものが六つも、浜に流れ着いたと言って届け出られた。
沈黙の水平線 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
およそ十丈もあろうかと思うほどの、裸体の人形で、腰には赤の唐縮緬からちりめんの腰巻をさして下からだんだん海女の胎内に入るのです。入って見ると彼地此地あちこちに、十ヶ月の胎児の見世物がありましたよ。
江戸か東京か (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
去年の夏、本間久雄君が早稲田文学で「民衆芸術の意義及び価値」を発表して以来、此の民衆芸術と云う問題が、僕の眼に触れただけでも、今日まで十余名の人々によって彼地此地あちこちで論ぜられている。
それでも随分彼地此地あちこち出たぢやないかね。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)