廓大かくだい)” の例文
例えば鼻の大きい人の鼻を普通の計測的の大きさの比以上に廓大かくだいして描いたり、喜怒の感情の発現を誇張した身振りで示すがごときは、最も月並な慣用手段である。
漫画と科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
乱れた髪の毛と、膨れ気味の眼瞼まぶたは、一層彼女の美しさを廓大かくだいした。彼女は寂しく笑って続けた。
好色破邪顕正 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
帯の模様は廓大かくだいした雪片せっぺん。雪片は次第にまわりながら、くるくる帯の外へも落ちはじめる。
浅草公園:或シナリオ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この竹の花は常に見るを得べからざられども時にこれを出すことあり。その小穂は不整に相集りその花メダケよりは大にして今これを廓大かくだいして示せばすなわちその状第九図中の「イ」の如し。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
著者の志す所は厳君げんくんの『経籍訪古志』を廓大かくだいして、いにしえより今に及ぼし、東より西に及ぼすにあるといっても、あるいは不可なることがなかろう。保さんは果してくその志を成すであろうか。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
彼女は乾したいわしのようにほそれきって、すこしばかりの粥と青白い乳や、たまには果物などをたべた。ただその瞳が異様に廓大かくだいされていて、光は床につかない前よりも鋭くなりまさっていたのである。
香爐を盗む (新字新仮名) / 室生犀星(著)
それは自己を統御することのできぬ弱い性格の持ち主である。しかしその感情は多くの恋にまじめに深入りのできるだけ豊富である。従ってここに人生の歓びとその不調和とが廓大かくだいして現わされる。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
以上のような花に比べると例えばホタルブクロのような大きな花は却って二十倍くらいに廓大かくだいして見てもそれ程びっくりするような意外な発見はないようであった。
高原 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)