寵者おもいもの)” の例文
今では板倉屋伴三郎の寵者おもいもので通っているお勢が、かつて白旗直八に関係があろうとは、誰も知ってはいなかったのでした。
主膳の左右にいる者の小声でうわさするところによれば、あれこそ、新支配の駒井能登守が、このごろ新たに手に入れた寵者おもいものということであります。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
若い番頭——たしか、新お代官の寵者おもいものお蘭さんの言うところによると、浅吉の弟で政吉といったと覚えている。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「担ぎ魚屋の伝吉の女房になるより、七千八百石の旗本の寵者おもいものになった方が——」
ともかくも諸侯の秘蔵の寵者おもいものを盗み出して、連れて逃げるということであってみれば容易ならぬことです。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
何年か前にお才は御家人の竹を振り捨てたので、竹は自棄やけを起して両刀を捨てたんだろう。久し振りで逢うと、女は大旗本の寵者おもいものになっている。ツイむらむらと殺す気になったんだろう。
この美しい尼ならぬ尼は、駒井能登守の寵者おもいもののお君のかたであります。お君は、恵林寺へ寄進の長持と見せて、その中へ入れられてここまで送り届けられたものであります。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「さんざんの道楽で勘当になり、板倉屋に転げ込んだ。最初は伴三郎と似た者同士で仲よく遊び廻ったが、板倉屋の寵者おもいもののお勢が、五年前白旗にだまされて道行みちゆきまでした事があると解って二人の仲は次第に面白くなくなった」
なあに——親爺の寵者おもいものだ、親爺の召使の一人だから、自分にも召使の分限だ——という主人気取りは多分に残されてあるが、さて、この女に対すると、どうも一目を置きたがる。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この女は父の寵者おもいものであった、父のおめかけであった。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)