宇津うつ)” の例文
あまり暖くならぬうち一度是非行つて見たく、ついでに其處の宇津うつ峠をも越えて見たいと思ふうちにいつか桃の花が咲いて來た。
やがて、小夜の中山、宇津うつの山を越えたとき、遠くに雪を頂いた山が見えた。名を尋ねると甲斐かい白根しらねというのであった。
宇津うつ峠も、桑名の城も、鈴鹿峠も天竜川も、ことごとく広重の絵であった。むろん、木橋はコンクリートになり、山は乱伐ではげており、無粋な電柱が立っている。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
新しく自前じまえになれたら、何とつけましょうねえ、そうそう、『宇津うつ』とつけましょう、それがいいわ、宇津と御本名をそのままいただいては恐れが多いから、かなでねえ
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
谷をヤと言う西の端はどの辺であろうか。駿河の宇津うつより西へ越えても
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「さあ、これからが宇津うつ峠。業平なりひらの、駿河するがなるうつの山辺のうつゝにも夢にも人にあはぬなりけり、あの昔の宇都の山ですね。登りは少し骨が折れましょう。持ちものはこっちへお出しなさい。持っててあげますから」
東海道五十三次 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
かすかに池に音を立てゝ降り頻つていゐる雨を、またその雨の中に折々忍び音に啼いてゐる小鳥を聽いてゐると、もうとても宇津うつ峠を越して行く氣分がなくなつてしまつた。