嫌応いやおう)” の例文
旧字:嫌應
最後の死のゴールへ行くまではどんな豪傑でも弱虫でもみんな同列にならばして嫌応いやおうなしに引きってゆく——ということであった。
のんきな患者 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
雲水空善が、懐から出した一枚の絵図面を真ん中に置くと、絵柄はピタリと合って、嫌応いやおうもなく三人の眼を吸い寄せます。
大江戸黄金狂 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
こうしてベシイ・マンディは嫌応いやおうなしに癲癇の兆候があるということに外部から決められてしまったのだ。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
お喜代は、その翌日、嫌応いやおうなくまた誘いに来た。今戸から船仕立てで、芝まで行こうというのである。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人生は僕等に嫌応いやおうなしに「生活者」たることを強ひるのである。嫌応なしに生存競争を試みさせなければ措かないのである。或人びとは自ら進んで勝利を得ようとするであらう。
それは二十年三十年後まで待って実現さるべき問題ではなく、三年、五年、あるいは十年の後、我らは嫌応いやおうなしに、提琴王メニューインの威風を仰ぐことであろうと思う。
「ひと月勤めてみて、いやになったら、やめるというようなわけにはゆかないからなあ。何しろ遊女になったら、客の求めることは嫌応いやおうはいえないのだ。それだけの決心がなくちゃ困る」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
近所の箱丁はこやだの、中の妹のお里だのが、走ってきて、嫌応いやおうなく、連れ去った。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おお秦野屋、おめえにも嫌応いやおうなしに、一役振り当てたが、異存はねえか」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
政子と佐殿すけどのとの間に、二世のちぎりが生じれば、嫌応いやおうなく、平家へそむいて起ち上がりもしようかと、彼の総領宗時を始め若い群は考えて、配所と北条との通い路を、ひそかに守って来たものだった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
嫌応いやおうなしのおどしである。お通は馬の背中へくくしつけられた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)