多福たふく)” の例文
ところが日本では観音様をはじめとして、お多福たふく、能の面、もっとも著しいのは浮世絵うきよえにあらわれた美人、ことごとく細い。みんな象に似ている。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その日になれば男女なんにょ乞食こじきども、女はお多福たふくの面をかぶり、男は顔手足すべて真赤に塗り額に縄の角を結び手には竹のささらを持ちて鬼にいでたちたり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
なんぼ実があるとて、まだ年若な清さん、私はこんなお多福たふくでも側にゐられて気持の悪くなるほどの女でもある間敷まじく、つひ手がさわり足が障るといふやうな事にならば
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
して、このお多福たふくめえ、気に入らねえけったいな女詩人だと言ったら……
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
きっとほかに美しい娘さんもおありでしょうし、もしそうでないとしましても、私の様なこのお多福たふくが、どうまあ一生可愛がってもらえよう、などと色々取越とりこし苦労もしますれば、従ってお友達だとか
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
枕元を見ると箱の上に一寸ばかりの人形が沢山並んでゐる、その中にはお多福たふく大黒だいこく恵比寿えびす福助ふくすけ裸子はだかごも招き猫もあつて皆笑顔をつくつてゐる。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
多福たふくの面のうしろ側には、怖い鬼の面が隠れているのだ。
白髪鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)