塵労じんろう)” の例文
全然何の理由もないのに?——塵労じんろうに疲れた彼の前には今でもやはりその時のように、薄暗い藪や坂のある路が、細細と一すじ断続している。…………
トロッコ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
所望しょもういたしてよろしいものなら、なにとぞ、一念発起の心根をあわれみ、塵労じんろう断ちがたい鈍根の青道心にいたわりを寄せ給いて、浮世の風が解脱の障礙とならぬよう
閑山 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
そして死を期していた私は病癒えて、塵労じんろうの中にたたかいつつ生きている。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
が、とにかく保吉は三十年後の今日こんにちさえ、しみじみ塵労じんろうに疲れた時にはこの永久に帰って来ないヴェネチアの少女を思い出している、ちょうど何年も顔をみない初恋の女人にょにんでも思い出すように。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
一切の塵労じんろうを脱して、その「死」の中に眠ることが出来たならば——無心の子供のように夢もなく眠ることが出来たならば、どんなによろこばしいことであろう。自分は生活に疲れているばかりではない。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)