喰込くいこ)” の例文
こんなにも悲しい、こんなにも悲しいのか、……何が? 冷え冷えとした真暗な底に突落されてゆく感覚が彼の身うちに喰込くいこんで来る。
美しき死の岸に (新字新仮名) / 原民喜(著)
肱をばさりとふるったけれども、よく喰込くいこんだと見えてなかなか放れそうにしないから不気味ぶきみながら手でつまんで引切ると、ぷつりといってようよう取れる、しばらくもたまったものではない
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
種吉は算盤そろばんおいてみて、「七りんの元を一銭に商って損するわけはない」家に金の残らぬのは前々の借金で毎日の売上げが喰込くいこんで行くためだとの種吉の言い分はもっともだったが、しかし
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
電車がきしりながらすぐ近くの小駅に近づいて来る。不思議に外部のもの音が心に喰込くいこんで来る。すると急に電灯のあかりが薄暗く感じられ、見慣れた部屋の壁の色がおそろしくえているのだ。
冬日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)