哥兄あにい)” の例文
が、愈々その試験めいたものを受けた時、川上はつく/″\此の毱栗頭いがぐりあたま哥兄あにいを見て、さて見縊みくびつたやうにかう云つた。
(新字旧仮名) / 久米正雄(著)
小粋なモーニングに山高帽、苦み走った一文字眉、剃立ての顎も青み渡った勇肌いなせ哥兄あにい。恭々しく一礼すると
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
洗いざらしの印袢纏しるしばんてんに縄の帯。豆絞りの向う鉢巻のうしろ姿は打って付けの生粋いなせ哥兄あにいに見えるが、こっちを向くと間伸まのびな馬面うまづらが真黒に日に焼けた、見るからの好人物。
芝居狂冒険 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
久太郎 哥兄あにいや、まあさ、勘弁してやってくれ。当人だって詫びをいってるんだ。なあ、もういい加減に勘弁してやってくれ。俺からも頼むからよ。な、もういいだろう。
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
一文字眉の、眼差の鋭い勇肌いなせ哥兄あにい。玄関の障子をガラリと引き開け、勝手へ駆け込む幸田の後ろ姿を見ると
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
彼はもと魚河岸の哥兄あにいだつたが、持つて生れた剽軽な性質は、新派草創の祖たるオツペケペーの川上が、革新劇団の旗を上げて、その下廻りを募集した時、朋輩たちの嘲笑をも顧みず
(新字旧仮名) / 久米正雄(著)
そうしてるうちにどこの人足かしらないがひどく哥兄あにい面をしたのがはいって来たからうまい工合だと、あとはそいつにまかせ、帰るふりをして横手へまわり、柳の幹をつたって窓からはいり
金狼 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)